ロゴ日本側彎症学会

患者様インタビュー

Vol.419歳で手術に踏み切った神経筋原性側弯症の患者様の事例|患者様のインタビュー 第3回(全3回) 2025.11

今回は、脳性麻痺による重度運動障害を抱えた方(Hさん)の神経筋原性側弯症(脳性麻痺や筋ジストロフィーといった神経や筋肉の病気に伴う脊柱側弯症)の事例を紹介します。Hさんが側弯を発症するまでの過程と、当時は国内で手術例の少なかった脳性麻痺患者への脊柱側弯症手術に19歳で踏み切るに至るまでの背景、そして手術後の充実した生活までを追います。神経や筋肉の病気を持つお子さんは、身体の成長にともなって側弯症を発症するケースが非常に多く、神経筋原性側弯症とよばれる高度脊柱変形が、呼吸機能障害や消化管機能障害を引き起こすことも少なくありません。そのため、側弯症状の進行を少しでも止めることが重要ですが、Hさんは手術による改善を強く望みました。Hさんが通院する病院では当時は前例のない手術でしたが、その手術によってHさんは「人生が変わった」と言います。そのエピソードをHさんご本人へのインタビューで紐解きます。

全3回でお届けするインタビューの最終回。神経筋原性側弯症の手術を受け、生活が大きく改善したというHさん。その後、親元を離れ独立を決意するまでの経緯と、現在運営している介護事業所のお話も聞きました。

── Hさんはなぜ親元を離れて独立したいと考えるようになったのですか?

Hさん:すごく尊敬しているKさんという介護事業所を運営されている男性の方がいて、その方は筋ジストロフィーを患っていて、症状も進行していくタイプだったんですね。でもその方がすごくアグレッシブで、症状が悪化する前は自分で車の運転もするし、事業所のお仕事もバリバリこなす。その方が「Hさんもきっと独立できるよ」とおっしゃってくれて。あともう一人、Tさんという、すごく信頼しているヘルパーさんがいるんですが、とても経験豊富でいろんな障害者の方を見てこられて、「障害が重い方ほど、親も子も自立できないケースが多いです」とおっしゃっていて。「親は歳をとれば当然介助ができなくなっていくし、親子とも、まだ若いうちに生活を分離したほうがいいですよ」とアドバイスをいただいたんです。私は側弯の手術を受けたあとは、母親だけでなく、ほかの方も介助ができる状態になっていましたし、Tさんは「今、親と離れるほうがいいんじゃない?」と。

── それで一人暮らしを考え始めたんですね。何歳の頃でしたか?

介護事業所イメージ
介護事業所イメージ

Hさん:27歳で実家を出て暮らし始めました。それでヘルパーさんに来ていただきながら暮らしていたんですが、中には相性の合わない方もいるんですよね。どうしても、介助してあげているという意識からか、命令口調の言葉を投げる方もいて。少しずつそういうことがストレスになってきて、不安症がひどくなり適応障害になってしまいました。自律神経失調症です。それで、その時にお願いしていた事業所のお世話になるのはもうやめようと思いました。それで母親の協力を得ながら、独立して事業所を立ち上げることにしたんです。介助を受ける身として、ヘルパーさんの育成もできるし、理想としている事業所を作っていきたいと思って、私が実際に面接をしてヘルパーさんを募っています。28歳のときに立ち上げて、今5年目になります。ヘルパーさんも増えてきて、現在では12人くらいの方に活躍していただいています。

── 自身の経験を直接活かす、とても有意義なお仕事ですね。

Hさん:そうですね。自分が実際に介助される側として感じたことなどを伝えつつ、ヘルパーの育成や教育には特に力を入れています。

── そうして生活に目標ができたり前向きになれたりしたことには、やはり側弯症の手術を受けられたことが大きく影響していますか?

Hさん:はい。今でもあの頃のN先生とのやりとりは鮮明に記憶に残っています。現在も年に1回、N先生に診てもらっていますが、やはり当時の話に花が咲いてしまいますね(笑)。「あの時、Hさんに手術をしてほしいと言われなかったら、神経筋原性側弯症の手術は今でもやっていなかったかもしれない。Hさんがきっかけを作ってくれて、今では200件を超える手術をして、みんなが楽になっているんだよ」と言ってくださって、少し誇らしい気持ちになります。「先生の医者人生を変えたんだよ」ともおっしゃってくれて。あの時、強引にお願いしたことは間違っていなかったんだと思えて、自分にでもできることや人の役に立てることがあるんだなと自信を持てるようになりましたし、N先生が手術に踏み切ってくださったおかげで、私の人生も大きく変わったんです。あの時手術をしていなかったら今頃どんな状態になっていたか、想像するだけでゾッとします。手術自体は大掛かりなものですし、誰にでも安直に勧められるものでもないのですが、私自身は、手術を受けて本当によかったと思っています。

── 最後に、側弯症の患者さんに寄り添う医師や医療従事者の方に向けて、手術経験者の視点から伝えたいことなどがありましたら、ぜひ一言お願いいたします

Hさん:まず、側弯症の症状が進むとどんな状態になってしまうのか、早期に丁寧に説明していただけると、患者さん本人もご家族もとても助かると思います。その上で「できる」「できない」はあると思うのですが、患者目線に立って医療を提供していただけたらありがたいです。自分の意思を伝えられない患者さんもいると思いますが、ご家族とコミュニケーションをとって、患者の気持ちを理解してほしいです。私自身は、N先生に本当に無理なお願いをしましたが、それを受け入れていただけたことにとても感謝しています。患者さんやご家族も、先生には「どうしたいか」を伝えて、しっかりコミュニケーションをとるようにすることが大切なのではないかと思いますね。N先生は患者の気持ちを理解してくれました。何度も言いますが、私の人生を変えてくれた先生です。感謝してもしきれません。

ページトップへ